【獣医師解説】アレルギーだと療法食を一生食べなきゃいけない?

どうぶつ


ぽこです。

獣医師を10年以上やっています。動物病院勤務だった頃に多く経験したのが「アレルギー性皮膚炎」でした。こんなにいるのかというくらい1日に最低2〜3件は皮膚に関するお悩みを持つ患者さんが来ていました。皮膚症状というのは飼い主さんが外から見てわかる異常だということ、すぐに生命には関わらないけど、痒みで眠れないなど生活の質(QOL)を落としてしまうので早くなんとかしたいと思うことが理由かなと思っています。

皮膚の炎症がある子では、アレルギーが背景にある子が多かったです。食べ物が原因となる、または一部関わることが多いアレルギー。まずはアレルギー用の療法食から始めることがほとんどです。そんな中で飼い主さんからは…

この子は一生、このごはんしか食べちゃいけないんですか?

アレルギーがあるのは分かるけど、おやつをあげたい

療法食をずっと続けるのは経済的に厳しい

こんなお悩みを聞くことが多かったです。

そんな飼い主さんへ。食物アレルギーがあってもごはんを変えられる可能性があるんです!食べられるおやつを探すことができるんです!そのやり方について解説していきます。

※今回紹介するやり方は獣医師の指導のもとで行う必要があるものです。担当医と相談しながら進めましょう。

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アレルギーの症状と原因って?

アレルギーというと、皮膚が赤くなったり痒みが出たりというイメージがありますが、実はそれだけではないんです。

その子によっては消化器に下痢や嘔吐などの症状が出ることもあります。また、人の花粉症と同じように涙が出たり、結膜炎、鼻汁やくしゃみなどの症状であらわれることもあります。

今回は動物病院でもよく見るアレルギー性皮膚炎の対応として解説していきます。

食べ物が関与するアレルギーと、花粉やハウスダストなど環境中のアレルゲンが関与するアレルギーがあります。どちらかだけの場合もありますが、併発していることも多いです。全体的に見ても食べ物が関与している可能性が高いということです。

飼い主さんなど人がコントロールできることは、まずは『食べ物』です。花粉などはいくら掃除を頑張っても100%防ぐことは難しいですよね。食べ物であれば変えることが可能なので、アレルギーが疑わしいとなるとまずごはんを変えるところから始まります。

まずは療法食で除去食試験

アレルギーが疑わしいとなると、まずは除去食試験というフードを変えるところから始まることが多いです。除去食試験とはアレルギーを起こしづらいフードに変えて、アレルゲンを極力除去をしてみて反応を見るということです。アミノ酸や、低分子までアレルゲンとなるタンパク質を分解したフードが使われることが多いです。

約1〜3ヶ月間、除去食と水だけで、痒みや他の症状がどれくらい治るかをみる試験です。

療法食以外のものはダメ?

除去食試験の間は口にするのはそのフードと水だけです。ほんのひと口、おやつだけなら‥と思うかもしれませんがダメです!

たとえひと口でも痒くなるアレルゲンが身体に入ってしまうと、せっかくの除去食試験が無駄になってしまいます。家族の誰かかこっそりおやつをあげたりしてしまうと、せっかくの頑張りが無になってしまうことも。なので、試験の間は家族全員でしっかり協力をしなければいけません。

除去食試験の結果は?

アレルゲンの少ないフードに変えたからといって、次の日からすぐ皮膚がキレイになったり、痒みがなくなる訳ではありません。皮膚のターンオーバーにあわせて1ヶ月から2ヶ月くらいで変化が分かるようになります。

ただ、あまりに痒みや皮膚症状が強い場合は薬を使いながら除去食試験をし、薬を減らせるかどうかをみていくやり方もあります。

痒みが減ったり、皮膚や毛並みが良くなったりするようであれば食物アレルギーが関与してる可能性が大きいと推測されます。

食物アレルギーだったらフードはどうする?

除去食試験の結果、食物アレルギーが強く疑われた場合はフードはどうしたらいいでしょう?

極論、その子が持っているアレルギーにヒットするタンパク質が含まれていないフードであれば大丈夫なんです。

たまに除去食試験に使ったアミノ酸食や低分子の分解食のまま、もうずっとこれだけね!と言われることがあります。でも、何の食べ物がその子のアレルギーにヒットしているか分かりません。もしかしたら、小麦だけ抜いてあるフードなら大丈夫かもしれないし、一方でほとんどの食べ物がNGでアミノ酸食じゃなければ痒くなってしまうという場合もあると考えられます。

血液で分かるアレルギー検査もありますが、まだまだ信頼度は充分ではなく、参考程度です。(費用も高いので、どうしても方向性が見えない時など、担当医と相談しながらやりましょう)

アレルギー用の療法食はどんなもの?

アレルゲンとなるのはタンパク質です。肉や魚以外にも小麦や米、大豆などの植物性タンパク質にアレルギーを発症することもあります。食物アレルギーの子用のフードは大きく分けると以下の2種類になります。

アレルギーが起こりづらいように分解、加工したフード

このフードは先述の除去食試験に使われることが多いです。フードに含まれるタンパク質が通常よりも小さく分解されているごはんになります。成分表を見ると『加水分解』と書いてあるものが多いです。また最小レベルのアミノ酸まで分解されているものもあります。小さくなるほど、体がアレルゲンとして認識して反応をしづらくなります。このためアレルギーを起こしづらいフードです。

アレルギーにヒットしにくいように食材を限定したフード

一般的な総合栄養食には肉、魚、穀物、野菜など様々な食材が使われています。多くの食材が含まれるということはそれだけアレルギーにヒットする確率が高くなるということです。

なのでアレルゲンとなるタンパク質の種類を1〜3種類程度に限定したフードであれば、それだけアレルギーにヒットする確率が低くなります。よく、グレインフリー(穀物が入っていない)のフードをアレルギーの子に勧められるのは穀物が入っていない分、当たる確率が下がるからなんですね。

また、今まで食べたことがないタンパク質を原料としたフードもあります。これを新奇タンパク食と言います。今まで食べたことがないのでアレルギーを獲得していない可能性が高いフードです。サーモンなどの魚系やえんどう豆を使ったもの、鹿肉などいろいろなものが製品としてあります。

ただ、どのフードならOKという判断が難しいのでひたすら試していくしかないのが難点です。除去食試験後、一つずつフードを試していくと、それぞれまた時間がかかってしまいます。

暴露試験(負荷試験)で食べられるもの探そう

暴露試験ってご存知ですか?

なんだか怖そうな名前ですよね。これは除去食試験の次のステップなんです。負荷試験という場合もあります。除去食試験で痒みが改善したら前に食べていたフードへ戻します。そして痒みが再発すれば「食物アレルギー」と確定診断になります。

ただ、せっかく皮膚が良くなったのに、あえて痒みがぶり返すかもしれない試験をやりたい飼い主さんはあまりいません。現実的にはここまでやることはほとんどありません。ではどうするのか?

除去食試験で食物アレルギーが関係していることが分かったら、今度はどんな食べ物なら痒くならないかをチェックしていきます。これなら前向きに取り組める飼い主さんも多いです。

  1. 除去食試験で痒みが改善したところからスタート
  2. 一つの食材を1〜2週間程度ベースの除去食に足してみる(例えば鶏肉)
  3. 痒みが出なかったらその食材は食べてもOK
  4. 次の食材をまた同様に1〜2週間足してみる(例えばじゃがいも)
  5. 途中で症状、痒みが現れたらその食材は避ける

これを繰り返して食べられる食材を探していきます。上記の例なら鶏肉は食べられるけど、じゃがいもは痒くなるのでじゃがいもを抜いたフードを探せばいいんですね。

暴露試験をするメリット

除去食試験で使われるアミノ酸食はあまり嗜好性が高くない(美味しくない?)ことが多く、途中で食べなくなってしまう子もいます。またアミノ酸色を始めとしたアレルギー用療法食はやはり価格が高めです。なので、他のものが食べられることがわかれば、通常のお店に売っているような総合栄養食(その子にとってアレルギーを起こしづらいもの)を選ぶことができます。

フードの欠品や災害時にも安心ですね。そしておやつもあげていいものが増えるのは飼い主さんにとっても、わんちゃんにとっても嬉しいことです

中にはせっかく暴露試験をしても市販のフードではカバーしきれず、療法食を続けるしかない場合もあります。それでも一度やってみる価値はあるかなと思います。ご希望の方は獣医師に相談しましょう。

暴露試験は獣医師の指導のもと行いましょう

暴露試験の最大のデメリットはアレルギー反応が起こるリスクがあるということです。多少痒くなる程度であればいいのですが、中には顔が腫れ上がったり、血が出るまで掻きむしってしまう子もごく少数ですがいました。獣医師の指導のもと試験は進めるようにしましょう。念のためのステロイドを処方してもらったり、病院があいている時間を計算して午前中に食材を試すようにすると安心です。

食事と薬以外のアレルギー対策

スキンケア

アレルギーの子は皮膚が乾燥しやすいという特徴があります。これにより皮膚のバリア機能が低下し、炎症を起こしやすくなってしまいます。定期的なシャンプー、保湿をすることにより、皮膚の状態を良い状態で保ってあげることは有効なケアの方法です。

サプリメント

アレルギーの子では腸の免疫をあげることで、免疫の暴走であるアレルギー反応を抑えることができると報告があります。腸内の善玉菌と、その善玉菌の餌(食物繊維)をサプリメントで摂取することにより皮膚症状が改善した例もあります。

他には亜鉛やビタミン、消炎効果が期待できるオメガ3不飽和脂肪酸などがあります。これらをうまく使ってあげることで薬を減量できたり、生活の質(QOL)が上がることもあります。

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まとめ

食物アレルギーだったら一生、療法食と水しか口にできないか?実は調べてみたら意外に食べられるものがあった!なんてこともあります。

  • アレルギーが疑われたらまずは除去食試験
  • 除去食試験で症状が落ち着いたら今度は暴露試験
  • 食材を一つずつ試してみよう
  • 痒みなど症状がぶり返す可能性もあるので獣医師の指導のもと行いましょう
  • 食べられるものが増えたら、市販のフードでも対応できる可能性もあり
  • スキンケアやサプリメントも上手に使おう

食物アレルギーだけではなく、環境中のアレルゲンに反応してしまうアトピー性皮膚炎を併発している場合もあります。薬が必要な場合もあるので担当医と相談しながら進めましょう。全ての動物たちとご家族がHappyになりますように。

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