ぽこです。
獣医師を10年以上やってます。動物病院勤務の頃、お口にお悩みのわんちゃん、飼い主さんをたくさん見てきました。わんちゃんの歯周病は重度になるとごはんを食べられなくなったり、全身に悪影響を及ぼす可能性もあります。
そんな歯周病の治療のなかで、歯を抜く(抜歯)処置が避けられない場合もあります。
歯周病で歯を抜くなんて!
そんな飼い主さんのお声もありました。でも実際は抜歯が必要なケースもあります。ではどんな時に抜歯が必要になるのか、抜歯をしたあとはどうなるの?ごはんは食べられる?そんな疑問についても解説していきたいと思います。
3歳以上は歯周病をもってる子が〇〇%??
3歳以上のわんちゃんの75%には、何らかの歯周病があると言われています。
健康なわんちゃんの口はピンクの歯肉に白い歯です。だんだんと歯の表面に黄色〜茶色の歯石がつき始めます。これは歯垢(食べかすや細菌など)が、石のようにカチカチの歯石になってきているサインです。
歯と歯肉の間に汚れや菌がたまってくると、歯肉が炎症を起こし、さらに歯の周りのポケットは深く、細菌も増えていきます。これが歯周病です。ピンク色だった歯肉は赤黒く、出血しやすくなります。
ついた歯垢〇日で歯石になる?
わんちゃんの唾液にはカルシウム分が多く、ついた歯垢(食べかすや菌)は約3日でカチカチの歯石になると言われています。ついてしまった歯石は日常のケアではなかなか落とすことができません。全身麻酔での処置が必要になってきます。
歯をキレイにたもつポイントは、いかに歯垢の段階でキレイにするか?歯石がつかないようにするか?です!
歯周病がひどくなるとどうなる?
歯周病がひどくなると、歯の周りの組織が歯を支えることができなくなり、歯がボロボロと抜けてしまいます。細菌が増えると歯根部分に膿がたまり、周囲の骨まで溶かしてしまうこともあります。その結果、頬に穴があいたり、顎の骨が折れやすくなることもあります。
また、炎症が広がって、鼻汁やくしゃみ、目のトラブルを起こしたり、腎臓や心臓に悪影響を及ぼすことも。
歯周病は全身にダメージを与えるおそれのある怖い病気なんです。
歯周病で歯を抜くって本当?
本当です。
犬の歯は42本ありますが、なかには1回の処置で20本以上抜かなければいけない子もいます。人だとあまり歯周病イコール抜歯というイメージはないですよね。
歯周病が重度で抜歯が必要。では、具体的にどんな場合に歯を抜かなければいけないのかを解説していきます。
根本が膿む根尖膿瘍や外歯瘻
歯には見えている部分(歯冠部)と根っこの部分(歯根部)があります。歯周病がひどくなると、歯の周りの歯周ポケットがどんどん深くなり、歯根部の周りの骨がじわじわ溶けていきます。
健康な歯はがっしり歯槽骨という骨に根っこが埋まっているため、ちょっとやそっとじゃ動きません。でも歯根のまわりの骨が溶けてくるとぐらぐらしてくるのと同時に、隙間に細菌が入り込み増殖。酷いと根本に膿が溜まってしまいます。(これを根尖膿瘍といいます。)
第四前臼歯という奥歯の根っこがこの根尖膿瘍を起こすと目の下が腫れたり、酷いとそこから膿が出てきたりします。(外歯瘻)
また、犬歯の根本が悪くなると鼻に近いので頑固な鼻炎、鼻水、鼻血などが見られる場合も。
こうなってしまうと、抗生物質などのお薬で一時的に良くなっても、また繰り返す可能性が高いです。根本的な原因の悪い歯を抜かない限り痛みと腫れが繰り返し起こることが多いです。
動揺(ぐらぐらしている)歯
上記の通り、ぐらぐらしている歯は、すでに歯周ポケットが深く、奥まで菌が入り込みやすい状態です。ここまでくるといくら歯周ポケットをキレイにしても歯のぐらつきが治ることはありません。たとえ歯を残しても自宅ケアで歯周ポケットの奥深くまでキレイにすることは困難ですし、場合によってはさらに悪化、化膿してしまう原因にもなります。
なので、ぐらついている歯は基本的に抜いていくことがほとんどです。
放っておいたら悪くなりそうな歯
これが1番獣医師も、飼い主さんも迷うところです。今はぐらぐらしていないけど、これ、放っておいたら1〜3年後には悪くなるだろうなという歯です。
こういう歯を抜くかどうかは事前に獣医師と相談して決めておきましょう。まだ若くて、これから麻酔をかけるチャンスがある子では経過観察でもいいかもしれません。高齢だったり、体調の問題で麻酔が難しい子は、次に麻酔がかけられない可能性を考慮して、抜いていくか残すかを決めていきます。
歯を残したいのか、それとも悪くなる可能性があるなら抜いて欲しいのか、担当獣医師に伝えておくことをおすすめします。
残ってしまった乳歯
乳歯が残っていませんか?
特に小型犬で多いのですが、永久歯が生えても乳歯が残っている子がたまにいます。避妊去勢手術の際に抜くこともあるのですが、そんな機会がなく大人になっても乳歯が残ってしまうケースがあります。
そうなると乳歯と永久歯が隣接し、「二枚歯」のような状態に。歯と歯の隙間が狭くなるので、汚れがたまりやすく、歯周病の原因となる可能性があります。
ちなみに一歳を越えても残っている乳歯は、ほぼ抜けないです。自然に抜けるかも‥と待っていたら結局は残ってしまったなんて話をよく聞きます。
ただ、乳歯を残した方がいい場合も時にはあります。一歳過ぎても永久歯が生えてきていない場合です。かなり顎の小さなチワワなどでたまに見るのですが、永久歯が一部生えてこない(外に出てこない)子がいます。こんな場合は無理して乳歯を抜かずに温存することがあります。
歯を抜いたらどうなる?ごはん食べられる?
抜歯をして良かったこと
1番は痛みがなくなることです。
上記のような歯の状態であれば、痛みがあることが多いです。たとえ、ごはんを食べていたとしても、じんじん痛い歯がずっとあると嫌ですよね。それがなくなることで、わんちゃんにとっても生活の質を向上させることが期待できます。
また、歯が原因で鼻炎などがあった場合も落ち着いてくることがほとんどです。口がきけないわんちゃんだからこそ、ケアしてあげたいですね。
抜歯をするとこれが大変
犬歯を抜いた場合などは舌が口の外に出っぱなしになることがあります。
ごはんを食べられなくなるのでは?という心配がとても多いのですが、大丈夫です!
犬の歯は獲物を捕まえる犬歯、そして飲み込める大きさまで肉を引きちぎるための裂肉歯(奥歯のこと)からなります。人間のように咀嚼をすることはわんちゃんには必ずしも必要ありません。さらに飼われているわんちゃんは自身で獲物を捕まえる必要もなく、各メーカーからのフードは丸飲みしても大丈夫なように作られています。
初めは食べづらいこともあるかもしれませんが、徐々に慣れて上手に食べられるようになる子がほとんどです。
まとめ
歯周病が原因で歯を抜くことはあります!
- 歯周病が悪化すると痛みだけではなく、全身に悪影響が出ることも
- 原因となる歯を抜かないと症状が繰り返し起こることが多い
- 根本が膿んでいる歯やぐらつく歯は抜いた方が生活の質があがる
- 放置してたら悪くなるであろう歯は、その子の年齢、状態もあわせて獣医師と相談しよう
- 歯を抜いても意外にちゃんと食べられる
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