ぽこです。
獣医師を10年以上やってます。動物病院で勤務していた頃、たくさんのわんちゃん猫ちゃんの歯の処置をする機会がありました。
1週間に1〜2回は麻酔をかけての歯石取りをしていたくらい、頻繁にある処置でした。(動物病院によるとは思いますが、私が勤務していた病院では多かったです。)
歯石取りというと、人でも歯医者さんでやってもらうのでだいたいのイメージがつくかと思います。わんちゃんも基本的には同じですが、全身麻酔が必要という点で大きく違います。
今回はわんちゃんの歯石取りの具体的な流れ、費用などよくある質問をまとめました。
今、わんちゃんの歯石取りをしようか検討している方、わんちゃんの口臭やお口の汚れに悩んでいる方の参考になれば嬉しいです。
歯石取りは全身麻酔
わんちゃんの歯石取りは基本的に全身麻酔での処置になります。
なぜかというと、あのキーンという水が出る機械で歯石を取っていくのですが、わんちゃんにとってはとても怖いことです。さらに器具の先端は尖っているものが多いため、わんちゃんが怖くて動いてしまったりすると思わぬケガをする可能性もあります。動かないように押さえて処置をすることはわんちゃんにとってストレスが大きく、さらに痛い思いをすれば大きな負担になってしまいます。
無麻酔歯石取りをしているところもありますが、麻酔がないことが必ずしもわんちゃんの負担が少なくなるとは限りません。(一部特別な事情がある子は除いて)
わんちゃんの安全のために日本小動物歯科研究会では、無麻酔での歯石除去はすすめていません。
具体的な歯石取りの流れを紹介
診察
まずはお口の診察です。ワクチンなど他の診察のついでに診てもらって「これは歯もやった方がいいね」となることも多いです。
また、飼い主さんがわんちゃんの口の汚れや口臭を主訴として診察にくる場合もあります。
歯石のつき具合、歯肉の状態、歯のぐらつき、腫れの有無などをチェックしていきます。その結果、麻酔をかけてのスケーリング(歯石取り)が必要かどうか判断していきます。
場合によっては術前に抗生物質などが出される場合もあります。膿が溜まって腫れてたりするとまずは薬で散らしてから処置となることもあります。
術前検査
麻酔をかけての歯石取りが必要となった場合、その子がちゃんと麻酔をかけられる状態かどうかしっかり検査をしていきます。
歯周病はやはり、年齢とともに増えてきますし、重度になってくる傾向があります。当然、そうなると麻酔をかけるリスクは年齢とともに上がってきます。
状態により検査内容は少しずつ違いますが、血液検査や胸のレントゲンなどの検査をしていきます。動物病院やその子の状態によって、当日術前検査をする場合と、事前に検査だけをする場合とがあります。
麻酔歯石取り
術前検査が問題なかったら麻酔をかけて処置をしていきます。
ちなみに全身麻酔時は誤嚥防止のため絶食と絶水が必要です。間違えて朝ごはんをあげてしまうと手術がキャンセルになりますので注意しましょう。
歯の状態確認
まずはしっかりと口の中の状態を確認します。歯石、歯肉の状態もそうですが、歯周ポケットの深さを針金のような器具で測定したり、歯科用のレントゲンで歯根部やまわりの骨の状態を確認したりします。
スケーリング(歯石取り)
超音波スケーラーという器具を使用して歯石を取っていきます。これもやり過ぎてしまうと歯を痛めてしまうので、注意をしながら処置を進めていきます。
歯石の下から白い歯が出てくると嬉しいんですよね。スケーリングが終わって真っ白な歯を見るとやったー!と感じます。(動物病院スタッフあるあるかもしれません笑)
歯石をとりながら、状態の悪い歯がないかどうか診ていきます。ぐらつきや、異常にポケットが深い歯は、今後、痛みや化膿の原因になることがあります。
ポリッシング(研磨)
超音波スケーラーでもやはり、細かい傷が歯の表面についてしまいます。なので、仕上げにポリッシングという一手間をかけます。これ、とっても重要なんです。表面をしっかり磨いていく処置です。
ここを丁寧にやるのとやらないのとでは、術後の歯石のつき方が違います。
経過チェック
そして、麻酔のあとのアフターフォローです。だいたい術後1週間くらいで再診があることが多いです。
体調に変化はないか?歯肉の腫れなどはないか?などをチェックしていきます。ここでOKであれば歯みがきなどの自宅ケアを開始しましょう。歯石取りをした直後は歯が傷つきやすいので、歯みがきは控えてスプレーなどのケアだけがおすすめです。
こんな子は動物病院での歯石取りをおすすめ
ガッチリ歯石がついている
歯が見えないくらい歯石が付いていると、なかなか一般的なケアでは取れません。歯石が付いていると歯肉にも炎症が及んでしまいます。まずはリセットのため麻酔下での歯石取りをしてから、自宅ケアでキレイな状態をキープしましょう。
口に痛みがある
ごはんを食べるときに痛がる、ドライフードを食べなくなった、前は大丈夫だったのに口を触らせてくれなくなった‥
どんなにいい子でも痛いところを触られたら嫌ですよね。ただ、わんちゃんは話すことができないので、「痛み」がはっきり分からない場合もあります。
ごはんを嫌がるようになったら、まず動物病院で診察をしてもらうことをおすすめします。
歯がぐらついたり、出血がある
明らかに歯がぐらぐらしてたり、よだれに血が混じったり、噛んだおもちゃに血がついていたりする場合は、歯周病が進んでいる可能性があります。ぐらついた歯は自然に抜ければ良いのですが、実際はなかなか抜けません。そうこうしているうちに根本が膿んでしまうこともありますので、早めに動物病院へ行きましょう。
歯石取りよくある質問
今日すぐできますか?
診察をしていて、「あー、これは歯石取りした方がいいですね。」と、言うと
「あ、じゃあ今日お願いします!」
と、軽く言われてしまうことがあります。おそらく人の歯石取りなら全然問題ないかと思います。でも、わんちゃんの場合は全身麻酔です。
当日すぐにできるかというと、だいたいの動物病院では難しいのではないでしょうか?
手術の予定は何週間も前から入っていることが多いです。なので緊急ではない手術をすぐ入れられる可能性は低いことが考えられます。
もし、キャンセルなどで手術室に空きがあったとしても、おそらく朝ごはんを食べていたら安全のため全身麻酔はかけられないと思います。
歯石取りは今すぐやらないと生命に関わるような処置ではないため、しっかりとスケジュールを組んで実施していきましょう。
歯石取りって保険ききますか?
これも多い質問です。
答えは保険がきく場合と、きかない場合があります。
保険がきく場合
重度歯周病や根尖膿瘍(歯の根本に膿がたまること)など、病的な状態の治療のための処置であれば、保険が使えることもあります。
保険がきかない場合
もともと除外されている場合はもちろん、病的ではなく、ただ歯石のクリーニングのための処置だと保険の適用外になることが多いです。
保険に関しては各社からさまざまなプランが出ているので、もし歯石取りをする場合には保険会社に確認してみましょう。
歯石取りっていくら?
これも歯の状態によってさまざまです。クリーニングだけであれば3〜5万円程度、抜歯などがあれば8〜10万円を超える場合もあります。
抜歯の本数、歯の場所、縫い方、麻酔リスク、歯科レントゲンの有無などて費用は変わってきますので、診察時にだいたいの見積もりを獣医師に聞いてみましょう。獣医師はインフォームドコンセントとして費用も大まかには伝えなくてはいけません。遠慮なく聞きましょう。
歯を抜かないでほしいんだけど、できる?
これ、実はちょっと困るんです。できるだけ歯を残してあげたいというお気持ちはとてもよく分かります。
ただ、歯石をとっていると、もう触るだけでポロっと抜けそうな歯があったり、「この歯は今は大丈夫だけど1〜2年後には悪さをしそうだな‥」という歯があったりします。
ぐらつく歯を残しても、本人が気にしたり、痛みが出たりすることがあるので、抜いてしまった方がいい場合もあるんです。
処置前に獣医師に自分の希望を伝えてもらうと助かります。
- 最後の麻酔にしたいので、悪くなりそうな歯はすべて抜いてください
- ぐらつく歯だけ抜いてください。
- 先生に抜歯の判断はお任せします。
- どうしても抜かなきゃいけない歯だけ抜いてあとはなるべく残してください
その子の年齢や状態にもよりますよね。まだ6歳で、これからも麻酔のチャンスがある子と、もう13歳で、これからはなるべく麻酔かけたくないという子では対応は変わってきます。
将来的なことも含めて獣医師と相談しましょう。
まとめ
わんちゃんの歯石取りに関して紹介してきました。
- 基本的には全身麻酔での歯石取り
- 診察、術前検査をして口の状態と全身状態をチェック
- スケーリング(歯石取り)後はポリッシングが必須
- 悪い歯を抜くこともある
- 歯周病が重度の場合、自宅ケアでは改善しないことが多いので麻酔が必要になることが多い
- 人の歯石取りと違って、当日にすぐできないことがほとんど
- 保険がきくかどうかは事前に保険会社に確認
- 費用は口の状態により3〜10万円程度(状態により前後します)
- 歯を残すかどうか希望を伝えてくれると助かります
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