ぽこです。
獣医師を10年以上やっています。最近ではペットの犬や猫も高齢化が進んでいます。獣医療の進歩やフードの進歩でどんどん寿命が伸びています。動物病院で勤務していた頃、老犬、老猫のケアについて聞かれることが多かったです。
高齢化とともに増えているのが介護。そして食事の悩みです。うちの子にご飯をあげることって楽しみの一つでもあり、美味しそうに食べている姿を見ていると幸せになりますよね。一方で、色が細くなり、あまり食べなくなったりすると心配です。加齢により、そんなお悩みが多く聞かれるようになりました。
介護の中でも食事のケアはちょっと特別です。やはり生活の質(QOL)の観点から、「食べること」って大きなウェイトを占めています。今回は少しでも、おうちの子がおいしくご飯を食べられるようにできる工夫などを解説していきます。
介護の壁に当たる人も多い
人の介護で大変な思いをしている方も多いかと思います。動物の介護はどうでしょうか。実際に動物病院には老犬・猫ちゃんがたくさん来院します。中でも『要介護』状態の子は増えてきたように思います。
状態はそれぞれですが、中には介護のためにお仕事を変えたという方もいます。お話を聞いていると、やはり時間的にも経済的にも壁があるようです。
寝たきりや認知障害などで目が離せない状態になることもあります。大切な家族のために頑張っていらっしゃる方も多いかと思いますが、その反面で介護疲れしてしまう方もたくさん見てきました。
動物病院や往診、デイケアサービスなども最近はありますので、頑張りすぎないでください。動物たちには、絶対にご家族の気持ちは伝わってるはずです。
食事のケアのお悩みって?
療法食を食べてくれない
高齢になってくると持病も増えてきて、場合によってはお薬だけではなく、専用の療法食を処方される場合が多いです。基本的にはその療法食だけが理想的なんですが、これがまた、美味しくなくて…いや、お口に合わなくて「食べない!」という子もいます。(メーカーさんは本当にいろいろな工夫をして美味しく作ってくれています!)
動物病院でも療法食を出しても、一定数の子たちは全く療法食を受け付けないという経験をしてきました。もうハンスト状態で、飼い主さんと獣医が折れる…という感じです。
おいしいものしか食べなくなった
食べてるフードはいつもと変わらないのに、フードを全く食べなくなって、人の食べ物を欲しがったり、ペット用のおやつしか食べなくなってしまう子もいます。
総合栄養食であるフードを食べて欲しいのに食べない。食べないのが心配だからとりあえず食べるもの(おやつなど)を食べさせているが、栄養の偏りが心配という声をもらうことがあります。
口からこぼしてしまう、食べるのをやめてしまう
歳のせいなのか、口からぼろぼろこぼしてうまく食べられない、食べ方が変。初めは食べてくれるが、だんだんスピードが鈍くなって途中で食べるのをやめてしまう。
これらのことで、食べる量が全体的に減ってしまい、栄養状態が悪くなり、痩せてきてしまいます。
強制給餌って難しい
自力で食べられない子には、流動食をご家族が食べさせてあげる必要があります。これがなかなか難しいとお悩みを聞くことがあります。
- ものすごく嫌がる
- 口に入れても出してしまう
- むせたり、誤嚥が怖い
食事のケア対処法、これやってみよう
高齢の子が食べない、食べるのをやめてしまう原因としては以下のようなことがあります。
- 食欲自体がない
- フードが嫌
- 食べることに疲れてしまう
- 食べると痛い(歯周病など)
なので、これらに対するケアを考えていきましょう。食欲がない原因に関しては病気が原因の可能性もあります。必ず獣医師と相談しながら進めましょう。
フードの種類や形態を変えてみる
フードの種類を変えてみることがひとつの方法です。たとえ療法食でも、各メーカーから同効果のフードが販売されてることが多いので、メーカーを変えてみると食べることがあります。
また、ドライフードをウェットに変えてみる方法もあります。今までカリカリ派だった猫ちゃんがどうしても食べなくて、缶詰をあげたら意外と食べた!なんてことも。
高齢の子でよくあるのが、口が痛かったり、飲み込むのが大変だったりすることです。そんな時はペースト状のフードだと飲み込むのが楽になります。
食欲があがるように工夫
高齢だと視覚や嗅覚が鈍くなっている可能性があります。フードを人肌程度に温めてあげることで匂いが立ちやすく、食欲を刺激することができます。電子レンジで10〜20秒で十分です。
おやつなどをフードにトッピングすることも有効です。鶏肉などを電子レンジで蒸して、その汁ごとフードにかけてあげたり。ただ、腎不全などで食べるものの制限がある場合には、担当医と相談しながら進めましょう。
姿勢を支えられるようなグッズを活用
食べることを嫌がったり、途中で食べるのをやめてしまう原因のひとつが『姿勢』です。寝たきりで横向きが食べづらかったり、食べるために首を下げるのが痛かったり、ずっとその姿勢でいることがキツかったり‥
まだ、自分で立てるような子なら、お皿の下に台をつけて楽な姿勢で食べられるようにしてみましょう。
姿勢がしんどいようなら、クッションや便利グッズを使ってみましょう。小型犬なら、飛行機に乗る時のU字型の枕などを顎下に入れてあげると姿勢が安定します。
楽な姿勢がとれることが1番です。また、取手つきのお皿など、ご飯をあげやすいように、それぞれの子の状況に合わせてあげてください。
手作り食を試してみる
持病にもよりますが、手作り食を取り入れることで食欲が出ることもあります。初めはお野菜とお肉などを煮てそのスープをドライフードにかけてあげるだけでも立派な手作りごはんです。
手作りの場合の注意点があります。
- あげてはいけない食材に気をつける
- 持病があれば担当医に相談
- 栄養の偏り(カルシウムなどミネラルが不足しがち)
- 飼い主さんが無理して頑張りすぎない
作ったご飯を美味しそうに食べてくれたら嬉しいですよね。でも毎食作るのは本当に大変です。まとめて作って冷凍ストックなどを上手に使って無理しないようにしましょう。
強制給餌のやり方
ご飯を食べないって病院で相談したら、さらっと「じゃあ強制給餌してください」って言われても‥困りますよね。実際に病院でやり方を見せてもらうのが1番わかりやすいです。その子によって許容してくれるやり方はそれぞれです。
直接歯茎に塗りつける
直接ペーストや缶詰を歯茎や、口の裏に塗りつけて食べてもらう方法です。後述のシリンジ(注射器)などを嫌がったり、口が触れる子に向いています。コツはなるべく奥の方に塗ること、ひと口ごとに飲み込むのを確認してから次のひと口にいくことです。
シリンジなどを使う
シリンジを使って強制給餌をする際のコツは以下の通りです。
- 奥まで入れすぎない(確実に嫌がります)
- 歯や歯茎を傷つけないようにする
- ひと口分ずつ入れる
- 飲み込むまで顔をやや上むきで支えてあげる
シリンジでご飯を入れる位置は①犬歯の横(ここは歯がないから口の中にスムーズに入るため)②ほっぺの中(ほっぺをちょっと横にひいてスペースができたとこ)がやりやすいです。
鼻先につける
どうしても嫌がる子は、鼻先にペッと塗ってあげるとぺろっと舐めます。実はこれ反射を利用したやり方なんです。鼻が濡れると舐めるという反射です。ずっとやっていると慣れてしまってやらなくなってしまうかもですが、最初に「あ、ごはんだ。美味しいじゃないか。もっと食べたい」というきっかけづくりにはいい方法です。
動物病院で相談する
持病なども含めて総合的に担当医に相談してみて下さい。ただ、獣医師でもフードや栄養に関しては、しっかり勉強している人と、そうでない人とで差が大きいです。なぜなら大学ではほとんど勉強をしないので、現場に出てから自分で勉強していくことになります。
先生によっては「この療法食だけ食べてればいいんだ」「フードはよく知らないから、とりあえずこの療法食以外はやめておいて」とあまり聞いても答えてくれないこともあります。場合によっては、動物看護師さんの方が詳しいことも。ペットフード会社の研修などを受けて『栄養管理アドバイザー』などの資格を持っている人もいます。
しっかり親身になってご飯の相談に乗ってくれる人がいると心強いですよね。
まとめ
やはり「食べること」は命に直結します。少しでも美味しく楽しく食事の時間が持てるようになる手助けができたら嬉しいです。
- なるべく食べてくれるように可能な範囲でフードを変えてみる
- ドライかウェットかも変えてみる
- 人肌程度に温めてみる
- 食べる姿勢が辛くないように調整する
- 強制給餌はその子に合ったやり方を獣医や動物看護師と相談しながら見つけよう
- 困ったら動物病院で相談
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