ぽこです。
獣医師を10年以上やっています。最近ではペットの犬や猫も高齢化が進んでいます。獣医療の進歩やフードの進歩でどんどん寿命が伸びています。動物病院で勤務していた頃、老犬、老猫のケアについて聞かれることが多かったです。
みなさん口を揃えていうことは「こんなに大変になるなんて思ってもみなかった」
みなさん、自分の家のわんちゃんや猫ちゃんが要介護状態になることって想像つきますか?
全ての子がそうなるわけではありませんが、高齢化が進むにつれて増えてきているのも事実です。今回は今まで見た、聞いたシニア動物の介護についてまとめてみました。そして獣医師として思う、今からやっておいた方がいいことも紹介したいと思います。
犬猫の平均寿命は伸びてる
犬全体の平均寿命は14.48歳、猫全体の平均寿命は15.45歳でした。犬は、超小型犬の 寿命が長く、また、猫の場合、「家の外に出ない」猫の平均寿命は16.13歳、「家の外に出 る」猫の平均寿命は13.57歳と寿命に大きな差がありました。
社団法人ペットフード協会
別の調査では(アニコムどうぶつ白書)2008年には犬の平均寿命13.3歳、猫の平均寿命は13.7歳でした。だいぶ伸びましたね。さらに長寿の子になると小型犬や猫では20歳を超えるような子も増えてきました。
介護の壁に当たる人も多い
人の介護で大変な思いをしている方も多いかと思います。動物の介護はどうでしょうか。実際に動物病院には老犬・猫ちゃんがたくさん来院します。中でも『要介護』状態の子は増えてきたように思います。
状態はそれぞれですが、中には介護のためにお仕事を変えたという方もいます。お話を聞いていると、やはり時間的にも経済的にも壁があるようです。
寝たきりや認知障害などで目が離せない状態になることもあります。大切な家族のために頑張っていらっしゃる方も多いかと思いますが、その反面で介護疲れしてしまう方もたくさん見てきました。
動物病院や往診、デイケアサービスなども最近はありますので、頑張りすぎないでください。動物たちには、絶対にご家族の気持ちは伝わってるはずです。
老犬・老猫介護、これが大変
寝たきりになる
人と同じで、犬猫も寝たきりになることもあります。身体が人より小さいので、小型犬や猫は寝返りをさせることはそこまで重労働ではないかもしれません。でも大型犬になると大人2人がかりだったりします。
寝たきりだと褥瘡(床ずれ)ができやすい
寝たきりになると出てくる問題が褥瘡です。筋肉が落ちて、骨が出っぱる部分(腰や肩、頬骨など)に圧力がかかりやすく、血流が悪くなることで起こります。
皮膚が剥けて内部の組織もどんどん壊死して大きくなってしまいます。寝返りを頻繁にしても、寝たきりの子は向きぐせがあったり、なかなかうまくいかないこともあります。
褥瘡ケアにおすすめなのは?
ドーナツクッションなどはかえって傷周囲の組織の血流を悪くしてしまい、悪化の原因になると言われています。なるべく体圧が分散するようなマットを用意しましょう。難しい場合は、身体が凹んでいる部分にタオルやクッションを当てがい、褥瘡の部分が出っぱらず、身体が平らになるようにしてあげるといいです。
褥瘡が化膿しないようにケアすることも大切です。キレイに傷口を保つようにしましょう。
通院が増える、薬が増える
もちろん高齢になれば何らかの疾患をもつ、またはいくつかのトラブルを併発することも多く、通院が増えることになります。通院や薬が増えると時間も取られますし、もちろん医療費もかかります。
病気が増えればその分お薬も増えます。5〜8種類くらい飲んでいる子も多いです。以前はご飯と一緒に食べてた薬も、だんだん食欲が落ちてくると飲むのが大変になってくるというお悩みもよく聞きます。
また、腎不全などでは自宅で皮下補液(点滴の液を皮下に入れること)をすることもあります。動物たちの場合は自宅でのケアが中心ですね。
お薬投与の補助でおすすめは?
美味しいおやつタイプの投薬補助トリーツがあります。尿石症や心疾患、腎疾患があっても使えるようにミネラルが調整されているものもあります。しかもアレルゲンフリー。これに埋め込んで食べてもらうわけですね。
また、どうしても薬を食べない子には直接口の奥に薬を入れて飲ませる方法があるのですが、これがなかなか難しいとのこと。私たちは現場でよくやるのですが、「やり方見せてください」と言われてやっても「これは無理だ…」と諦めてしまう方が多いです。中には薬が嫌いすぎて噛みついてくる子もいます。そんな時に活躍するのが『投薬器』です。
排泄のケア
高齢動物に必要な排泄のケア
トイレ以外のところで粗相が増えたりすることがあります。また、寝たきりだと、身体に排泄物の汚れが付着しやすく、炎症の原因になってしまうことも。
足腰が弱ってトイレまで間に合わないことや、神経疾患などが原因で粗相をすることがあります。粗相しても怒らず、トイレの数を増やしたり、バリアフリーにしたりしてみましょう。
背骨や神経疾患であれば、自力で排泄できないこともあります。そんな場合は動物病院で指導をうけて膀胱を圧迫して排尿させたり、お腹を刺激して排便をさせたりする処置を毎日やる必要が出てきます。
排泄ケアにおすすめなのは?
排泄のケアには清潔に保つことが何より重要です。専用の洗浄液、ペットシーツが便利です。ペット用のおむつもありますが、尿やけや尿路感染症の原因になりやすいので、こまめに取り替えてあげてください。
食事のケア
何か疾病があると、専用の療法食を勧められることがあります。また、年齢とともに歯の状態が悪くなり、硬いフードがたべづらくなること、食欲が落ちて匂いの強いものを好むようになることなどがあります。
また、食べる時も身体を自分で支えられず、うまく食べられなかったり、ボロボロこぼしたり、途中で嫌になって食べるのをやめてしまったりすることも。
食事のケアでおすすめなのは?
特に病気の縛りがないのであれば、その子が1番食べやすいフードにしてもらうことです。食べる体勢が辛くないようにお皿の台を使ったり、手持ちのお皿などで食べさせてあげると食べやすいです。
認知障害で夜鳴きや徘徊
犬猫も高齢化に伴い、認知障害が出てくることが増えました。特に柴犬など日本犬に多い印象です。夜にずっと鳴き続けたり、ぐるぐるとずっと一方向に回りながら歩き続けたり、バタバタと前足をずっと犬かきしたり‥飼い主さんが寝不足になったり、ご近所からの苦情をもらったりすることもあり、精神的に辛いこともあるそうです。
認知症のケアでおすすめなのは?
正直、認知症に効く薬というのはまだなく、現場も困っているというのが現状です。なるべく動物たちがひっかかったり、落下してケガをしないように環境を整えること。軽度であればω3脂肪酸のサプリメント(EPAやDHA)、イチョウ葉エキスなどが有効だという報告もあります。早めに始めることで進行を遅らせることが期待できます。
あまりに重度な場合は動物病院で鎮静剤などが処方されることも少ないですがあります。
今から出来ることは?
どの子が介護が必要になるかは誰にも分かりません。こんなことがあると知っておくだけでも大きな力になります。まだシニアになる前の子たちに、今からやっておいて欲しいことを以下にまとめてみました。
健康診断を定期的に受ける
6歳くらいまでの子なら年に1回、それ以上の子なら年に2回、最低でも血液検査を含めた健康診断をおすすめします。毎年予防接種で診察してても、身体検査で分かることは限りがあります。病院ごとに健康診断がお得に受けられるキャンペーンや本格的な犬猫ドックまでありますので、ぜひ利用してみてください。
話すことができない動物たちにとって、早期発見が何より大切です。
歯のお手入れをする
お口の状態は食欲に直結します。歯周病が悪化すると口の痛み、化膿、顎の骨をとかして骨折してしまうことも。高齢になって歯が痛くなっても、体調面で麻酔がかけられないとずっと痛いまま過ごさなければいけなくなってしまいます。定期的な歯のお手入れは動物病院と相談しながらやりましょう。
違うフードやお薬に慣れる
「うちの子、このフードしか食べないんです」
たまにありますが、実はこれちょっと危険なんです。そのフードが欠品したりするリスクもありますが、病気になった時に適切なフードが食べられないと場合によっては悪化してしまうこともあります。リスク回避のためにも数種類のフードを試しておきましょう。(アレルギーや持病がない場合ですね)
また、お薬を飲むこと、飼い主さんがあげることになれるというのもいいですね。サプリメントなどを使いながら練習してみてはいかがでしょうか。
いざという時頼れる人やサービスを見つける
どうしても自分が仕事で通院やケアができない場合に頼れる人やサービスを見つけておくと、シニアケアだけでなく、突発的な病気や怪我の時にも助かります。今は往診獣医師も増えてきていますし、老犬介護の訪問なども探せばあります。シニアになる前に考えておくと安心です。
まとめ
こうして書いていると、介護って人も動物も大変なことは確かです。おうちの愛犬、愛猫がシニアになる前になんとなくでいいので知っておくと心の準備もできますね。
- 動物も寝たきりになることもある
- 排泄や食事の介助も必要
- 医療費や通院の時間の確保が大変
- 認知症が増えてきているが、治療の決め手はまだない
- 若いうちから健康診断を受けて早期発見に努めよう
- 歯のお手入れは絶対にやっておいた方がいい
- 頼れる人やサービスをあらかじめ探しておこう
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