ぽこです。
獣医師を10年以上やっています。動物病院で勤務していた頃、良く遭遇したのが尿石症です。
尿の中に結晶や石ができてしまう病気で、血尿や頻尿などの膀胱炎症状を起こしたり、酷いと尿の通り道をふさいでしまう尿道閉塞を起こすことも。
治療は炎症があればお薬も使いますが、基本的には療法食による食事療法になります。各社からいろいろな種類の尿石症用の療法食がでています。
ここでよく聞くお悩みが!
先生、サンプルいっぱいもらったけど、結局どれにしたらいいの?
先生、療法食の違いはなに?
今回は数ある尿石症用の療法食のなかでも、ヒルズのs/dとc/dの違いについて解説します。なぜなら、実は目的が違うフードなので、間違った使い方をすると、健康に悪影響を与える可能性があるからです。
今、尿石症に悩んでいるわんちゃん、猫ちゃんのご家族、今は特に大丈夫だけど、尿の健康に気をつけたいと思っているご家族に分かりやすく、かつ実際の経験もあわせて解説します。
同じ尿石症用の療法食なのに何が違うの?
2つとも尿石症用の療法食です。犬、猫ともに尿石症は動物病院でもよく見る病気です。
成分を比較してみよう
今回は猫ちゃん用のs /dとc /dで比較してみることにします。両方ともドライフードで比較しやすいので。猫ちゃんのc /dは色々とラインナップがあるので、オーソドックスなチキン味のものと比較してみます。ちなみに犬用s /dは缶詰です。
s /d | c /d(マルチケアチキン) | |
目標尿Ph | 5.9〜6.1 | 記載なし(犬用c /dは6.3〜6.6) |
製品規格 | 500g/2kg | 500g/2kg/4kg |
原材料 | トリ肉(チキン、ターキー)、米、トウモロコシ、動物性油脂、コーングルテン、植物性油脂、全卵、チキンエキス、ミネラル類(カルシウム、ナトリウム、カリウム、クロライド、銅、鉄、マンガン、セレン、亜鉛、イオウ、ヨウ素)、乳酸、ビタミン類(A、B1、B2、B6、B12、D3、E、ベータカロテン、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、コリン)、アミノ酸類(タウリン、メチオニン)、酸化防止剤(ミックストコフェロール、ローズマリー抽出物、緑茶抽出物) | 米、トリ肉(チキン、ターキー)、小麦、コーングルテン、動物性油脂、植物性油脂、ポークエキス、魚油、ミネラル類(カルシウム、ナトリウム、カリウム、クロライド、銅、鉄、マンガン、セレン、亜鉛、イオウ、ヨウ素)、乳酸、アミノ酸類(タウリン、トリプトファン、メチオニン、リジン)、ビタミン類(A、B1、B2、B6、B12、D3、E、ベータカロテン、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、コリン)、酸化防止剤(ミックストコフェロール、ローズマリー抽出物、緑茶抽出物) |
タンパク質 | 34.7%(乾物量分析値) | 33.9% |
脂質 | 24.8% | 16.1% |
炭水化物 | 33.5% | 43.7% |
原材料は大きな違いはありませんが、チキン、米、小麦、とうもろこしなどにアレルギーがある子は気をつけたほうがいいかもしれません。s /dは脂質が高めなので膵炎や高脂血症がある子は注意して使用しましょう。
規格としてはc /dは4kgの大袋までありますが、s /dは2kgまでのものしかありません。また上記にはないですがc /dはチキン、フィッシュ、コンフォートなどの種類があり、缶詰も販売されています。
同じ尿石症用でも目的が違う
s/dエスディーは尿ケアをサポートする特別療法食です。ストルバイト結石の溶解の管理に、最短6日間(平均13日間)で役に立つことが科学的に証明されています。目標尿pH (5.9-6.1)が産生するようにマグネシウム、リンのバランスを調整し、抗酸化成分が配合されています。
要するにs/dは『ストルバイト』を積極的に溶かしていくごはんということです。
c/dも尿ケアをサポートする特別療法食です。ちなみに猫用c/dシーディーマルチケアは、ミネラルなどの調整により、猫ちゃんの下部尿路疾患で最も多い特発性膀胱炎再発時の89%のケアに役立つことが科学的に証明されています。
ミネラル、尿pHバランスに配慮し、尿路結石の形成の抑制をサポートします。ストルバイトに関しては溶かすほか、結石形成を抑えることが期待できます。シュウ酸カルシウムには、カルシウムの含有量を調整、クエン酸カリウムを配合、低ナトリウムにすることで結石を予防するとのことです。そのほかにも抗酸化成分、オメガ-3脂肪酸も含まれています。
要するにc/dはストルバイトも溶かすし、シュウ酸カルシウムも予防するよというごはんです。
さらにc /dの特徴として、ナトリウム約18%減と低塩分になっていることが挙げられます。(ヒルズ、サイエンス・ダイエット〈プロ〉 成猫 1~6歳 毎日の活力維持機能と比べて)尿石症用のフードにはナトリウム濃度を高めに設定して(塩分を多くして)飲水量を増やして尿量を増やすものがある中で少し違っていますね。低ナトリウムのメリットとしては尿中のカルシウム濃度を抑える働きが期待できます。これはシュウ酸カルシウム結石の予防に効果的と言われています。
c/dとs/dの使い方としては?
獣医師としての使いわけ
上記だけ見ると、どっちもストルバイトを溶かすのなら、シュウ酸も予防できるc/dだけ使えばいいように思うかもしれません。でも実際はしっかりと考えて使い分けているんです。
s/dを選ぶケース
上記の通り、「積極的にストルバイトを溶かしたい」時に使います。尿のp hを酸性に傾けるのでシュウ酸カルシウムには使いません。
ではどんな時にストルバイトを早く溶かしたいかというと、尿道閉塞のリスクが大きな時や、結石があって血尿などを繰り返しており、かつ手術も難しい場合などです。
ストルバイトの結晶が顕微鏡で視野いっぱいにキラキラしてたときや、エコー検査や肉眼的にも砂のようなものが見えた時などは、なるべく早く溶かしてあげたほうが尿道閉塞を起こすリスクを小さくできます。
尿道閉塞を起こして、それをカテーテルと呼ばれる細い管で詰まりを取る処置をした後も使うことが多いです。まだまだ膀胱の中には砂や石など詰まる原因が残ってると再び詰まる可能性が高いため、早めに溶かしてあげたいと思い、使っています。
s/dは最短で6日間で結石に効果があると言われています。ただ、これはそれぞれの炎症の程度や石の大きさなどによって変わります。ある程度結石(砂のことが多い)や結晶が落ち着いてきたら、もう積極的に溶かす必要はなくなるため、維持のためのフードへ切り替える必要があります。そのため猫ちゃんの製品規格は大袋の4kgがないのかなと思っています。
経験的にも500gを1〜2袋出したあと維持食へ切り替えることが多かったです。
c/dを選ぶケース
ある程度症状が落ち着いていて、ストルバイト結晶もそこまで多くない場合、またシュウ酸カルシウムが出ている場合などに使用します。基本的に維持食なので他の病気などが出てこないならずっと食べ続けてもらうことが多いです。
c /dは他社製品に比べ尿量を増やすことがそこまで多くないので効果がマイルドな印象があります。そのぶん、長期投与には安心なフードなので、それぞれの子の好みに合わせて処方することが多いです。
また、実際に診療していて思うのが、ひと口に療法食と言っても効きぐあいは個体差があるということです。あるフードで全然血漿が減らなかったのが、別のフードに変えるとすんなり溶けたりすることも。
どれがいいかは本当に「その子による」ところもあります。症状や結晶の種類、嗜好性などを考え合わせて療法食を選んでいただけたらと思います。療法食に変えて安心せずに定期的な尿検査も忘れずに。
まとめ
ヒルズの尿石症用療法食のs /dとc /dって何が違うの?
- s /dは積極的にストルバイト結晶を溶かしていくフードで、多くの結晶が出ていたり、砂や結石などが悪さをする可能性がある場合によく使われる
- c /dはストルバイト結晶を溶かす作用もあるがシュウ酸カルシウムの予防もあり
- c /dはナトリウム濃度が低いので長期投与に向いている
- どのフードがいいかはその子の状態によって違う
- 療法食に変えても定期的に尿検査は受けよう
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