無麻酔スケーリングって実際どうなの?おすすめしない理由5選

どうぶつ

ぽこです。

獣医師を10年以上やってます。動物病院でよく聞かれることなどを、なるべく専門用語を使わず、分かりやすく、おしゃべりする感覚で解説していきたいと思います。

みなさん無麻酔スケーリングって知っていますか?

わんちゃんの歯に歯石がついてしまうと、歯みがきなどの日常的なケアではもう落とすことが難しいので、キレイにするにはスケーリング(歯石除去)をする必要があります。

人も歯医者さんでやりますよね。あのきーーーーんという、水がでるやつです。

人は口開けて大人しくしててねと言えば、ちゃんと我慢できますが、わんちゃんに同じ我慢は難しいです。なので、基本は動物病院で全身麻酔でスケーリングをします。

ところが、中には麻酔をかけずに、わんちゃんが起きてる状態でスケーリングをする病院や、サロンがあります。これが無麻酔スケーリングと呼ばれてます。

米国では安全性の観点から行ってはいけない処置とされており、日本でも日本小動物歯科研究会は勧めていません。

麻酔をかけないんだから、身体への負担は少ないんじゃないの?なぜ危険なの??

私も獣医師としては患者さんに相談された際には基本的には勧めていません。その理由を分かりやすく解説していきたいと思います。

犬の歯周病は本当は怖い病気

わんちゃんの歯には歯垢(食べかすや菌)が付着し、時間が経つとガチガチの歯石になります。歯肉での炎症はやがて、歯の周りの組織へ進んでいき、根元に菌が入り込んで骨を溶かしたり、膿がたまったりします。下顎の骨がとけて折れてしまうこともあります。

歯の痛みだけではなく、その菌が全身にまわり、心臓や腎臓に悪影響を及ぼすこともあります。

歯周病は歯だけでなく、身体全体に悪さをする怖い病気なのです。

スケーリング(歯石除去)ってどんなふうにするの?

スケーリング

超音波スケーラーという、歯医者さんでよく見る、先がとがった器具で歯石をけずって取っていきます。その際に目に見える歯石を取るだけでなく、歯の根元、歯肉との隙間(歯周ポケット)の中までキレイにしていきます。これがとても重要!

ポリッシング(研磨)

スケーリングをしただけだと、歯の表面に細かい傷がついた状態です。このままだと、ぼこぼこした面にさらに歯石がつきやすくなります。なので、ポリッシングといって表面をなめらかにみがいていく処置をやります。

無麻酔スケーリングのいいところ

どうしても体調面などが理由で麻酔をかけられない子でも歯石をとることができる。

それでも無麻酔スケーリングをおすすめしない理由

犬をおさえつけることによるストレス

大人しく口を開けてある程度の時間我慢ができる子は現実的に少ないです。なので、基本的に押さえつけての処置になりますが、嫌なことをされながら動けないとなると、わんちゃんはとても怖いですし、ストレスにもなります。

また、動こうと変な力がかかってしまったりすると、関節や背骨を痛めてしまう可能性もあります。

器具などでケガをするリスク

歯石を取るためにはハンドスケーラーというとがった器具を使って、ガリガリと削り取っていきます。かなり鋭利なので、犬が動いた時に歯肉や口内を傷つけてしまう恐れがあります。

また、痛みを感じると術者を噛む恐れもあり、口を触られることをさらに嫌がる悪循環になる可能性もあります。

歯周ポケットまで届かない

歯周病の予防や治療のためには歯周ポケットをキレイにすることが必須です。ここをキレイにしないと、菌が深くまで入り込んで、骨をとかし、歯がぐらぐらになったり、根元が膿んだりしてしまいます。

よほど動物が協力的で、術者の技術があれば無麻酔でも歯周ポケットまでキレイにすることができますが、一般的には難しいことがほとんどです。

実際の診療でも遭遇するケースですが、見た目は歯石が少なくてキレイなのに、歯を痛がる子がいます。麻酔をかけて見てみると、歯の周りの歯周ポケットは深く、根元が膿んでいて、結局抜かなくてはならないことも多いです。

ここから分かるのは、見た目だけキレイになっても、歯周病のケアとしては不十分なんです。

表面が傷ついて歯石がつきやすくなる

先述の通り、スケーリングをしたあとは細かい小さな傷が歯にいっぱいついている状態です。これをみがかないと歯石がさらにつきやすくなってしまいます。無麻酔での処置でポリッシング(研磨)までやれるところはそう多くはありません。

誤嚥をする可能性

全身麻酔でのスケーリングは気管チューブといって、のどから気管に管を入れて呼吸を管理します。なので、口の中でじゃぶじゃぶ水を使っても、気管の方へ間違って流れ込むことはほぼありません。意識がある状態では、削った歯石や水がのどから気管に間違って入って誤嚥してしまうリスクがあります。歯石はばい菌の塊のようなものなので、気管や肺の炎症の原因になることも。

まとめ

無麻酔と聞くと、身体への負担が少なそうと感じる方もいるかと思いますが、じつはこれだけわんちゃんへの負担が大きな処置なんです。

それだけの負担をかけて、歯周病ケアに不十分な処置しかできないのであれば、全身麻酔でしっかりとやってあげた方が効果の面でも、わんちゃんへのストレスの面でも良いと個人的には思っています。

  • おさえつけての処置なのでストレスやケガをする恐れあり。
  • とがった器具を使う危険性
  • 歯周病の治療・ケアとしては不十分
  • 誤嚥のリスク

もし、麻酔へのアレルギーなど、特別な事情がある場合には、しっかりとした動物病院で知識や技術・経験のある先生のもとでやることをおすすめします。

コメント

タイトルとURLをコピーしました