腎臓食を食べない猫ちゃんに、獣医師が病院で試している対策

どうぶつ

ぽこです。

獣医師を10年以上やってます。動物病院でよく聞かれることなどを、なるべく専門用語を使わず、分かりやすく、おしゃべりする感覚で解説していきたいと思います。

猫ちゃんが高齢になってくると腎臓が悪くなる子が多いです。15歳以上の猫ちゃんの3〜5割、つまり3匹に1匹は腎臓に問題があると言われています。7歳以上のシニア猫ちゃんではよく見られます。

猫ちゃんの腎臓病(慢性腎不全)は徐々に進行し、悪くなっていきます。

その際にまず腎臓用の療法食を勧められることがほとんどかと思います。各メーカーさんからいろいろな種類のフードが出ていますね。

かなりたくさん聞くお悩みが

腎臓用の療法食を食べない

かわいいうちの子には長生きしてほしい、でも療法食を食べてくれない‥ご家族としてはもどかしくて、心配ですよね。この理由と私が実際に病院でやっている対策を、紹介していきたいと思います。

健康な猫ちゃんの食べむらにお困りの方はこちらの投稿もご覧ください。

猫の慢性腎不全とは?

まず腎臓とはどんな働きをしている臓器なのか。血液中の老廃物を処理して尿と一緒に体外へ排泄します。その際に一度腎臓で血液中の成分を濾過して、体に必要な水分や成分などを再吸収し、残りをぎゅっと凝縮して尿にします。

慢性腎不全は静かに進行する。気づいた時には…

慢性腎不全ではこの腎臓の働きが加齢や遺伝的要因などによって徐々に悪くなっていきます。ここでポイントなのが、腎臓は一度壊れてしまうともとに戻すことが難しい臓器です。なので早期発見して、残りの腎機能を大切にしていくことが必要です。

ただ、初期の頃は大きな症状もなく、元気や食欲に変化もないことがあるため、気づいた時にはかなり慢性腎不全が進行していた…なんてことも多いです。一般的な血液検査などで腎臓の数値が上がってくるのが、腎機能が75%低下した状態と言われています。血液検査で分かった時にはすでに腎機能の3分の2は低下しているということです。

腎臓が悪くなるとどうなるの?

初期症状はほとんどわからない程度かもしれませんが、徐々に進行していくと血液中に老廃物が溜まり、多くの症状が見られます。多いのは食欲低下、嘔吐、痩せてくる、毛艶が悪くボサボサ、口内炎・口臭がひどくなる…やがて重度になると発作を起こしたり生命にも関わってきます。

早期発見のためにはどうしたらいいの?

やはり早期発見できれば、早く対応することでより長く一緒に過ごすこともできる可能性があります。慢性腎不全を早期発見するためのポイントは

  • シニア(7歳以上)になったら定期的な血液検査と尿検査(最低年に2回程度)
  • 毎日のおしっこの色をチェック
  • 毎日のおしっこの量をチェック
  • 水を飲む量が増えてきていないか
  • 毛艶が悪くなってきていないか
  • 体重が減ってきていないか

腎臓が壊れ始めると、体に必要な水分がうまく再吸収されずに尿と一緒に出ていってしまいます。なのでおしっこの色が薄くなり、量が増えます。薄まるのでにおいも減ります。体から水分が減ってしまうのでお水をよく飲むようになります。こういった兆候があったら早めに動物病院へ相談しましょう。尿の持参もあるといいですね。

尿の取り方は以下の投稿で解説

腎臓病の治療ってどんなことするの?

まずは腎臓に負担のかからないタンパク質やリンを制限した食事療法から始めることがほとんどです。これが各々フードメーカーからさまざまな種類が出ている腎臓用の療法食ですね。

さらに血圧が高い子などは、腎臓への負担を軽くするために血圧を下げる薬を投与することもあります。あまりに老廃物が溜まり、脱水して状態が悪い子に対してはお腹の薬と点滴をすることもあります。(場合によっては入院ですね)

なぜ腎臓用の療法食は食べが悪いのか?

猫ちゃんはもともと肉食動物です。わんちゃんは雑食寄りの肉食動物。基本的に食べ物の中にはタンパク質が多い方が、もとの食性に近いので食欲が上がりやすい、おいしく感じると言われています。

では腎臓用の療法食はどうでしょう?

腎臓に負担がかかるリンやタンパク質を制限しているので、猫ちゃんの本能的にはあまり美味しいと感じられないごはんなのです。

また、慢性腎不全が進行している状態では、ただでさえ食欲がなく、気持ち悪さなどがある中で、あまり美味しくないご飯を出しても食べたくはありませんよね。この場合はまず全身状態を整えることが最優先です。

腎臓用のフードへのひと工夫

タンパク質が腎臓に悪いからといって全く食べないのは、本来肉食動物である猫ちゃんにとっては好ましくありません。腎臓の状態、全身状態に応じて適切な量の良質のタンパク質は摂るようにしましょう。

腎臓用の療法食はメーカーさんがそれぞれ工夫して、美味しく食べられる形状にしたり、香りをつけたり、少しでも猫ちゃんが好むように頑張ってくれています。動物病院で腎臓用療法食が必要と言われたら、数種類のフードサンプルがもらえることが多いのでそれぞれ試してみましょう。

食べが悪い、すぐに飽きてしまうといった場合、試してみてほしいのが以下の対策です。これは入院中の子に私が実際に試している方法です。

①フードローテーション

ある程度は食べるけど、飽きちゃう子の場合はフードローテーションがお勧めです。何種類かの療法食のフードを1袋ごとに変えてバリエーションをつけていきます。フードによってチキン味、お魚味があったり、形が違ったり、また、メーカーを変えたりしてみましょう。小さいものはドライフードで大体500gくらいのものがほとんどなので、ローテーションしやすいかと思います。

②温める

電子レンジなどで人肌程度に温めてあげるのも効果的です。匂いもたって食欲が上がります。猫ちゃんは野生では獲物を捕まえていたので、冷たいご飯よりも体温程度のご飯のほうが食いつきが良くなります。

③フードの種類を変えてみる

ドライフードがダメならウェットフードに変えてみましょう。特に慢性腎不全の子は水分が足りないことが多いので、水分の多いウェットなら食べるという子もいます。逆にウェットばかりあげていて全然食べなかった子がドライフードをあげたらガツガツ食べたということもありました。今まではこうだったから…という枠を超えて、猫ちゃんの好みにに応じて、変えてあげるといいですね。

④フードの形状を変えてみる

これ入院中によくやります。ドライフードであれば少し砕いてあげたり、ウェットフードも潰してペースト状にしたり、お湯を足してスープのようにしたりします。口を動かすのもしんどいからなのか、ペースト状にすると食べやすくなって食べてくれる子が多い印象です。

いや、でもウェットフードを潰すの面倒じゃない?

そうです。面倒です。まるで赤ちゃんの離乳食を作るような感じでちょっと手間ですよね。すり鉢でやる場合もありますが、忙しい動物病院ではこうします。

パウチをモミモミ

パウチをひたすらモミモミ。手で触って粒感を確認して滑らかなペースト〜ちょっと粒が残る程度までお好みで調整できます。手も汚れず、洗い物も出ません笑

⑤それでもダメなら

その子の状態によってなのですが、担当医と相談して一般食のトッピングなどをしたりします。どうしても食べない子で市販のフードやおやつを使う際には必ずシニア用のものがいいです。なぜなら若い猫ちゃん用のものよりも、リンなどが抑えられているためです。

まとめ

猫ちゃんの腎臓病は早期発見が大切です。腎臓用の療法食を食べてくれない子には以下のことを試してみましょう。

  • フードローテーションをしてみる
  • 人肌程度に温める
  • ウェット/ドライを変えてみる
  • フードの形状を変えてみる。ペーストがおすすめ
  • それでもダメなら担当医と相談してトッピングなど

健康な猫ちゃんに、腎臓病が心配だからという理由で療法食をあげるのはおすすめしません。体に必要な栄養であるタンパク質が不足してしまうからです。療法食を使う際にはかかりつけの獣医師と相談しながら使いましょう。

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